[]図形とデータ第一回目

芸術学部の講義、「図形とデータ」の第一回目の記録。


何故、感性も表現力もない自然が美しいのか?


美しい形というのはどのようにして作られるのでしょうか?「それはアーティストの感性と表現力だ」という人もいるでしょう。それでは自然の世界に見られる、沢山の美しい形はどうでしょうか?世界中を旅行すると、海、海岸、山、海中、草原、森などにはとても美しい形があります。そこんじょそこらの美術館に行くよりも、自然の形を観賞した方が、たくさんの美しい色、形を見ることができます。それだけではありません。ミクロな世界から大宇宙にいたるまで、自然にはたくさんの美しい形があります。

自然にはもちろんそれ自身は感性も表現力もありません。それでは何故自然にはかくも美しい形があるのでしょう



自然には数学、物理学の考え方が潜んでいる。

実は、自然の世界の形には、様々な数学であるとか物理的な考え方が潜んでいることが多いのです。自然に潜む数学のひとつの例として、「シンメトリー(対称性)」といったものがあります。シンメトリーと自然の例として、人間の顔とか動物の顔などを考えて見ます。人間や動物の顔の美しさには色々要因が考えられますが、まず一番重要な性質は「左右対称性」であるといえるでしょう。それだけではありません。太陽とか、月とか、花びらとかにも実はあるシンメトリーを持っています。美しい山の形や海岸線、シダなどのはっぱもシンメトリーを持っています。美しい自然の形の多くは、シンメトリーによって形作られるのです。
今回は「シンメトリー」を例に説明しましたが、自然は「シンメトリー」だけではなく、沢山の数学的、物理的背景を持って美しい形を作り出しています。





人間の作るデザインにも数学、物理学の考え方が潜んでいる。

さて、今度は話を人間が作ったデザインに移します。実は、人間が作るデザインも、多くは数学や物理学の考え方を利用しています。例えば、先ほどあげた「シンメトリー」は人間が作るデザインのほとんどいたるところで使われています。西洋や中東、日本の伝統的な美しい建築物を思い出してみましょう。そうすると、ほとんどの建築物が「左右対称性」を持っていることがわかります。もし、これら美しい建築物が左右対称性を持っていなかったら、それほど美しい建物にはならなかったでしょう。そう考えると、シンメトリーといったものが、いかに重要な役割をもっているかがわかります。

人間は、デザインを創るとき、「シンメトリー」以外にも積極的に数学的、物理的考え方を利用してきました。例えば、螺旋であるとか、黄金比であるとかです。それだけではありません。人間は数学、物理学のもつ神秘的?な側面、芸術的な側面に着目して、数学、物理学と哲学と芸術を結びつけて考えたりもします。その例がプラトンの多面体とかメビウスの帯クラインの壷などです。昔の人は、火を正四面体だとか、正十二面体を「宇宙全体を現すもの」なんていうように考えていたのです。他にも今でも時々芸術作品の中に、「メビウスの帯」とか「クラインの壷」に関連した作品が出てきています。

最近はコンピュータ・グラフィックスを使った美しい山などの映像も出てきていますが、実はこれらの絵も「フラクタル」と呼ばれる数学を使って、実際の山を見ることなしに描いています。フラクタルという数学を使うことによって、よりリアルな風景画を描くことができてしまうのです。コンピュータ・グラフィックスを利用した映画として、 スター・トレックマトリックスのオープニングなどがあります。このように現在は色々な数学的な考え方を利用して、映像が作られていることもあります。

というわけで皆さんも「美しい形」に関連した様々な数学を学ぶことによって、色々美しい形を作ってみてはいかが。。。。